2025年7月22日:無人島「黒島」に上陸!新たな挑戦、海洋ゴミ監視カメラ設置プロジェクト始動
- Kaz Uematsu

- 7月26日
- 読了時間: 6分
更新日:7月28日
特定非営利活動法人Natural Resource Damage Assessment of Asia(NRDA アジア)は、環境災害により危機に瀕した野生生物の救護とリハビリテーションを通じてアジアの生態系保全に貢献しており、特に長崎県対馬市における海洋汚染の影響を受けたアビ類の救護活動を中心に活動しています。2024年度の活動で培った知見と技術を活かし、本日、2025年7月22日、次なる重要なステップとして、対馬の無人島「黒島」において、海洋ゴミ監視カメラの設置作業を実施しました。

新たな取り組みの背景と目的:海鳥保護と海洋ゴミ対策の統合
対馬は「最も外洋からの漂着物が多い島」とされており、年間約3〜4万㎥もの海岸漂着物が発生しています。油汚染も海洋汚染の一形態として深刻な問題であり、海鳥への直接的な被害だけでなく、海洋プラスチックゴミが細分化したマイクロプラスチック(MPs)やナノプラスチック(NPs)による人体への影響も近年強く懸念されており、海洋生態系全体、ひいては人間の健康にも影響を与える可能性が指摘されています。
私たちはこれまで、KDDI財団との共催事業として、油汚染された海鳥の早期発見と救護率向上を目指し、リアルタイムでアビ類の漂着を確認できる遠隔監視カメラシステムの導入を進めてきました。このシステムは、野生動物の死体の早期回収や、油汚染されたシロエリオオハムの救護において、地域間連携モデルの有効性を確認する上で大きな成果をもたらしました。
今回の黒島でのカメラ設置は、この遠隔監視システムの活用範囲をさらに広げ、海洋プラスチックゴミ問題に特化したモニタリングを開始するものです。これは、海鳥保護の取り組みとして計画されていた、NRDAアジアが運用する監視カメラを対馬CAPPAに貸与し、冬季以外の時期に無人島での海ゴミ漂着をモニタリングする連携活動の一環です。

黒島は、その地理的特性から特に多くの海ゴミが漂着することが知られています。このプロジェクトの目的は、海ゴミの漂着状況を定量的に把握し、データを蓄積することで、より効果的な海ゴミ対策を検討することにあります。
KDDI財団と対馬CAPPA、そして九州大学との強力な連携
この革新的な取り組みは、KDDI財団からの通信技術支援と資金援助によって実現しています。KDDI財団は、ネイチャーポジティブとSDGsの観点から社会貢献を目指す私たちの活動に、継続的にご協力くださっています。
また、本プロジェクトは、長年海洋プラスチックゴミ問題に取り組んできた一般社団法人対馬CAPPAとの連携を強化するものです。対馬CAPPAは「海ごみの発生抑制」と「海ごみ問題の普及啓発」を主要な事業目的としており、今回の監視カメラ導入は、清掃活動の効率化だけでなく、地域住民や観光客への環境啓発活動においても大きな相乗効果が期待されます。
さらに、学術的な視点と先進的な解析技術を取り入れるため、九州大学工学部生態工学研究室(清野研究室)との共同研究も推進していきます。同研究室は、海岸環境の保全や漂着ゴミ対策に取り組んでおり、デジタル田園都市国家構想に基づく施策提案として、ドローンやAIを活用した漂着ゴミの監視・回収システムの導入も計画しています。NRDAアジアが技術的な支援を行い、対馬CAPPAが地域との連携を活かしデータ収集と分析を進め、九州大学清野研究室がその高度な解析を担うことで、より多角的なアプローチが可能となります。
期待される成果と今後の展望
• 海ゴミ漂着状況の定量的把握とデータ蓄積: 監視カメラによる定期的な撮影とデータ収集を通じて、漂着物の種類、量、季節変動などを把握し、特に海洋漂着ゴミの大部分を占めるプラスチックゴミに注目します。九州大学工学部生態工学研究室(清野研究室)との連携により、監視カメラから得られる映像データに対し、AIを活用した漂着ゴミの定量化および詳細な解析を進めます。このプラスチックゴミは、時間と共にマイクロプラスチック(MPs)やナノプラスチック(NPs)に細分化され、海洋生態系だけでなく、人を含む生物への健康リスクを高めることが指摘されています。
• 広範な海洋汚染リスクの評価と啓発:
◦ プラスチックゴミがPOPs(残留性有機汚染物質)の媒体(ベクター)となり、海鳥をはじめとする海洋生態系に深刻な影響を及ぼすリスクがあるため、その評価に貢献します。
◦ さらに、マイクロプラスチックが哺乳類の胎盤を通過し胎児に到達する可能性や、胎児の発達や各臓器(脳・肝臓・腸・生殖器・筋肉など)の健康に悪影響を及ぼす可能性も国内外の研究で多数指摘されています。具体的には、マウスの実験ではナノサイズのプラスチック粒子が胎児の脳に蓄積し、成長後の不安行動や探索行動の低下など、精神・行動異常との関連が示唆されています。また、胎盤のMPsが免疫システムの攪乱や有害物質の胎児への曝露増大を引き起こす可能性も指摘されています。
◦ 同様に、人の脳にも高濃度でマイクロプラスチックやナノプラスチックが蓄積していることが確認されており、2016年から2024年にかけて脳内のマイクロプラスチック量は約50%増加したと報告されています。認知症と診断された人の脳では、MPs/NPsの濃度が非認知症の人の約3~10倍高いという報告もあります。これらの脳内のプラスチック微粒子は、血液脳関門を通過し脳内に移行し、酸化ストレスの増加、神経炎症、アミロイドβパスウェイの促進(アルツハイマー病関連タンパク質の異常蓄積)、ミトコンドリア機能障害といった神経変性疾患のリスクを高めうる作用を示すことが動物モデルや細胞実験で示唆されています。
◦ 現時点では人における明確な因果関係は証明されていませんが、潜在的なリスクは非常に高く、本モニタリングを通じて得られるデータは、これらの広範な環境汚染が人間社会にもたらす潜在的脅威の解明にも寄与することが期待されます。
• 地域連携の強化と市民意識の向上: 監視カメラのリアルタイム映像共有は、ステークホルダー間の連携とモチベーションを高めます。対馬市と長崎県の市民に対し、油汚染を含む海洋環境への影響と野生動物保護の重要性を具体的に示す機会となり、今後の環境保全活動への市民の意識向上に繋がることが期待されます。
• 持続可能な活動モデルの構築: 海洋ゴミ対策と海鳥保護を統合することで、より広範な対馬地域の海洋環境保全に貢献する取り組みを推進し、将来的には「対馬海洋保護区」の実現を目指します。
今回の黒島での活動は、対馬の美しい自然を次世代に引き継ぐための重要な一歩です。引き続き、KDDI財団、対馬CAPPA、九州大学清野研究室、対馬市役所、長崎県庁、そして地域の皆様との協力体制を強化し、対馬をはじめとするアジアの生態系保全に尽力してまいります。
NRDAアジアは事務局機能維持のため、助成金以外の資金援助が必要です。もし可能であれば、私たちの活動へのご支援をお願いします。皆様の寄付が私たちの取り組みを支えることになります。【寄付リンク】
継続的にご理解とご支援をいただいている皆様に心より感謝申し上げます。
















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