東日本大震災から15年:NRDA アジアの歩みと、オオミズナギドリから紐解く鳥類研究の現在
- Kaz Uematsu

- 2 日前
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更新日:11 時間前
東日本大震災から15年という大きな節目を迎えるにあたり、当時のNRDA アジアの活動を振り返るとともに、2014年に私たちが発表したオオミズナギドリの調査報告以降、鳥類に関する研究がどのような進展を見せてきたのか、主要なトピックを整理しました。
震災当時のNRDA アジアの活動と提言
NRDA アジア(特定非営利活動法人 NRDA アジア)は、人間活動に起因する環境災害から野生生物を救護し、アジアの豊かな海洋環境を次世代に引き継ぐことを目的に、震災をきっかけに2011年に設立されました 。
震災直後の2011年5月、日本と米国の専門家が集まった「専門家会議」において、NRDAアジア代表が共同委員長を務めました 。この会議では、福島第一原子力発電所事故の規制区域内に残された伴侶動物、家畜、および野生動物への対応について緊急の提言が行われました。特に野生動物に関しては、ミズナギドリやアホウドリといった移動性の高い種への長期的影響をモニタリングすることや、海洋環境における海鳥のサンプル入手、そして放射線学、生態学、病理学などを含む学際的なアプローチの必要性が強く強調されました 。

2014年、我々は福島原発事故が海洋生態系の上位捕食者である海鳥に与えた影響について論文を発表しました。

この調査では、原発事故から4〜7ヶ月後の2011年繁殖期において、福島の放射性プールの影響下にある御蔵島(MKR)と、影響外にある枇榔島(BRU)のオオミズナギドリの雛を比較しました。その結果、両島で巣立ち雛の体重に有意な差はなかったものの、御蔵島の個体では血中のビタミンA(レチノール)濃度が有意に低いことが明らかとなりました。ビタミンAは成長や繁殖に不可欠な抗酸化物質であり、この減少は汚染された餌を通じた間接的な放射線曝露による生理的反応である可能性が高いと考えられます 。
利島での新たな知見:頭部奇形の確認
2014年の論文発表以降も継続的な調査を行う中で、2015年10月には伊豆諸島の利島において、頭部に顕著な奇形を持つオオミズナギドリの幼鳥を確認しました。

異常個体 正常個体
この個体については、放射線曝露との直接的な因果関係を科学的に証明することは現時点では困難です。しかし、放射線曝露が野生動物に催奇形性(組織形成の攪乱)や変異原性(DNA変異)の影響を及ぼす可能性は、チェルノブイリの事例などからも指摘されています 。このような異常個体の発見は、単なる個体数調査にとどまらず、個々の健康状態を詳細にモニタリングし続けることの重要性を改めて浮き彫りにしました。

2014年以降の鳥類研究における主要トピック
2014年以降、福島における鳥類研究は個体数動態から生理的・遺伝的影響、市民科学の活用へと大きく広がっています。
Garnier-Laplaceら(2015)は、環境放射線量だけでなく、各鳥種の生態や食性に基づいた「吸収線量」を再構築して分析しました 。
* 観察された57種のうち90%が、繁殖成功率に影響を与える可能性のある線量に慢性的に曝露していると推定されました。
* 総線量が10倍になるごとに個体数が22.6%減少するという強い負の相関が確認され、0.55 Gyの総線量で個体数が半減すると予測されています。
2015年には、陸域のトッププレデターであるオオタカの22年間にわたる長期調査結果が発表されました。
* 震災後、オオタカの繁殖パフォーマンス(孵化率・巣立ち率)は著しく低下し、3年間で段階的に悪化しました。
* この悪化には、餌となる生物を通じた**内部被ばく**が重要な役割を果たしている可能性が示唆されています。
3. 生理的・遺伝的影響:ツバメとウグイス
身近な鳥類を対象とした詳細な調査も進んでいます。
* ツバメの調査(2015)では、放射線レベルの高い地域ほど個体数が減少し、若鳥の割合( juvenile ratio)が低下していることが示されました [22, 23]。一方で、末梢赤血球を用いたDNA損傷の調査では、当時の線量レベルにおいて顕著な遺伝的損傷は確認されませんでした。
* ウグイスの調査(2015)では、2011年に高線量地域で捕獲された個体の羽毛が強く汚染されていたことや、総排出腔付近に稀な病変が確認された例が報告されています。
4. 市民科学と自動モニタリングの進展
データの透明性を確保するための「オープンサイエンス」の動きも活発です。
* 国立環境研究所などは、2014年からICレコーダーを用いた自動音声モニタリングを開始し、膨大なデータを公開しています。
* 「バードデータチャレンジ」といったプロジェクトを通じて、市民専門家が音声データからの種同定に協力しており、研究者と市民が連携して避難指示区域内の鳥類相の変化を追跡しています。
結びに代えて
この15年間で、放射線が鳥類に与える影響は、個体数の増減だけでなく、ビタミンAの減少や繁殖率の低下、そして稀な奇形の発生といった多角的な視点から解明されつつあります。NRDA アジアは、これからも海洋環境の守り手として、また科学的な知見を積み上げる一翼として、海鳥とその生息環境のモニタリングを粘り強く続けてまいります。


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